ｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝ…　ｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝ…

女上司「ああっ……！」

女上司「終電……無くなっちゃったね。どうしよう……」

部下「いい道具がありますよ」

女上司「え、なになに？」

部下「どこでもタクシ～！」

女上司「どこでもタクシー？」

部下「これです」

女上司「見た目は小さなタクシーだね」

部下「このタクシーはどんなところにも連れていってくれるんです」

女上司「へぇ～」

部下「しかも料金は普通のタクシーの1/10！」

女上司「安い！」

運転手「お客さん、どちらまで」

女上司「私の家までお願い！」

運転手「あいよ！」

ﾌﾞﾛﾛﾛﾛﾛ…

女上司「わぁ、車内は見た目以上に広くて快適！」

部下「安全運転で、しかも最短のルートを通ってくれるんですよ」

ｷｷｯ

運転手「着いたよ」

女上司「もう着いちゃった！　ありがとう、運転手さん、部下君！」

部下「お役に立ててなによりです」

女上司「……あ」

女上司「しまったァ！」

部下「どうしました？」

女上司「社外秘のメールを他社の人に送っちゃったの！」

部下「そりゃまずいですね」

女上司「もし、あれを読まれたら社内の機密が……！　お願い、何とかして！」

部下「でしたら……メール吸い寄せ機～！」

女上司「掃除機みたいな道具ね」

部下「これで送ったメールを吸い寄せましょう」ｽﾞｵｵｵ…




他社社員「ん？　メール来てる」

他社社員「あ、あれ？　メールがどこかに行っちゃう……消えた」

他社社員「なんだったんだ……いったい？」

部長「社長より訓示を行う」

社長「えー、今我々の業界は非常に苦しい状況にあるが……」

社長「全社員が一丸となって、一つの目標にまい進して……」

社長「従来やってることだけでなく、新しいことを始めて……」



女上司「あー……眠い」ｳﾄ…

部下「起きてないとダメですって！」

女上司「話長すぎ。どうにかならない？」

部下「仕方ないですね。早送リモコン～！」

部下「これを人に向けて押すと、その人の動作が早送りになります」ﾋﾟｯ



社長「ﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬ」

社長「ﾍﾟﾁｬﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬﾁｬﾁｬｸﾁｬﾁｬﾁｬｸﾁｬ」

社長「ﾍﾟﾁｬﾍﾟﾁｬﾍﾟﾁｬｸﾁｬｸﾁｬｸﾁｬﾍﾟﾁｬｸｰﾁｬﾍﾟﾁｬｸｰﾁｬﾍﾟﾁｬ」

社長「……以上」



女上司「助かったわ、ありがとう！」

部下「早送りしてもこの長さとは……ちょっと驚きました」

女上司「午前中の打ち合わせ、ずいぶんかかっちゃった」

部下「すぐ出かけないと、午後からの約束に間に合いませんね」

女上司「えっ、そんなぁ！　お昼食べてる時間ないじゃない！」

部下「仕方ないですよ。今日は諦めましょう」

女上司「お昼抜きなんて嫌！　なにか食べた～い！　お腹減って動けない～！」ｼﾞﾀﾊﾞﾀ

部下「動けないといいつつ動いてるじゃないですか……だったら栄養満点ゼリ～！」

女上司「こんなちっちゃいゼリーじゃ腹の足しにならないよ」

部下「いえいえ、これを食べれば一口で満腹になります」

女上司「へぇ～」

部下「名前の通り栄養満点の完全食で、体も健康になります」

女上司「すごい！」

部下「しかも太りません！」

女上司「それが一番重要！　よっしゃ食べるわ！」

女上司「部下君……おはよう」

部下「どうしたんですか、その顔」

女上司「朝寝坊しちゃって化粧するヒマがなかったの……」

女上司「すっぴんじゃみんなの前に出られない……」

部下「トイレでも行って化粧してくればいいじゃないですか」

女上司「化粧道具もないの～！　どうにかして部下君～！」

部下「世話が焼けますね、自動化粧機～！」

女上司「……」ｷﾗｷﾗ…

女上司「こんにちは」

取引先「こ、こんにちは」

女上司「打ち合わせを始めましょうか」

取引先「ええ、なんだか今日は一段とお綺麗ですね」

女上司「あらそうですか？　お上手なんですから」ｸｽｯ

部下（自動化粧機のメイクの腕は超一流だからな）

女上司「……ん？」

女上司「あれ？」

女上司「変な画面になったまま動かない！」

女上司「どうしよう、部下君！　何もしてないのにパソコンが壊れちゃった！」

部下「何もしてないことはないでしょう。何かしたはずですよ」

女上司「ホントに何もしてないんだって！　すぐに直して！」

部下「分かりましたよ。ヘルプイルカ～！」

部下「このイルカの言う通りにすれば、トラブルを解決できますよ」

イルカ『ここをこうすれば、元の画面に戻りますよ』

女上司「わっ、ホントだ。ありがとう！」

イルカ『他にトラブルはありませんか？　もっともっとお助けしたいんです』

女上司「もうないわよ、ご苦労様」

イルカ『そんなことおっしゃらず。何かあるはずでしょう？』

女上司「このイルカ消したいんだけど！」

部下「その方法はありません。時間が経つのを待つしかありませんね」

イルカ『何かトラブルはありませんか？　お手伝いしますよ？　もっと役に立ちたいんです』

女上司「あー、うっとうしい！」

女上司「電車内で被害にあってる女性が多いみたいで……」

部下「チカン撃退ハンド～！」



不審者「うへへへ……」

女上司「……」

不審者「いたたたたた！　尻についてる手につねられた！」

女上司「やったぁ！」

女上司「部下君、ある会社に一緒に来てくれない？」

部下「……」

女上司「なかなか契約してくれないんだけど、あなたの道具があれば……」

部下「一人でできないなら営業なんてしないで下さい！」

女上司「！　ど、どうしたのよ。いきなり……」

部下「ずっと言おうと思ってたんですが……」

女上司「？」

女上司「えっ、未来に帰る！？」

部下「……はい」

女上司「ちょっと待ってよ！　あなたがいないと私は……！」

社員A「課長、やめましょう！」

社員B「寂しいけど、彼には彼の事情があるんですから……」

女上司「うう……ごめんなさい」

部下「いえ……」

女上司「任せて！　これからは私一人でやれるから！」

部下「本当に？」

部下「終電逃がしませんか？　寝坊しませんか？　仕事ほったらかしにしませんか？」

女上司「も、もちろん！」

部下「安心しました」

女上司（どう見ても心配そうな顔してる）

女上司（ここで私一人でも仕事できるってところを見せないと……！）

女上司（難攻不落な会社を、私一人で攻略してみせる！）

他社部長「おや、またあんたかね」

女上司「はい、今日こそ契約して頂こうと」

他社部長「で、条件は？」

女上司「これです」ｻｯ

他社部長「……」

女上司「ぜひ我が社と契約を！　……お願いします！」

他社部長「話にならんね」

女上司「えっ！？」

他社部長「こんな条件なら、他にもっといい会社はいくらでもある。帰りたまえ」

女上司「待って下さい！」

他社部長「帰れといってるだろう」

女上司「いえ、帰りません！　絶対動きません！」

他社部長「な、なんだと……！？」

他社部長「いつまで居座る気だ！　警察に通報するぞ！」

女上司「ご自由にどうぞ」

他社部長「なぜだ、なぜそこまで契約したがる！？」

女上司「私だけの力で御社と契約しないと……」

女上司「部下君が安心して帰れないの！！！」

他社部長「知ったことか！」

他社部長「帰れ！」

女上司「帰らない！」

他社部長「もう付き合ってられん」ｻｯ

女上司「待って！」ｶﾞｼｯ

女上司「契約してっ！」

女上司「契約してええええええっ……！」

女上司「弊社と契約してえええええええっ……！」

他社部長「……！」

他社部長「わ、分かった！　契約するよ！」

女上司「ホントですか！？」

他社部長「ああ、ここまで熱意を見せられちゃな」

他社部長「……期待してるよ」

女上司「ありがとうございます、ありがとうございます！」

他社部長（今時こんなに熱意のある人間がいるとは思わなかった）

他社部長（なかなかいい契約をできたかもしれんな……）

ﾀﾀﾀｯ…

部下「課長！」

女上司「契約取ったよ、私」

部下「……！」

女上司「これで安心して帰れるでしょ、部下君」

部下「……はい！」

女上司「よかった……。やっと上司らしいところ、見せられたかな」

部下「あなたは最高の上司でしたよ……」

社員「彼は帰ったんですか」

女上司「うん」

女上司「……」

女上司（部下君、君が帰ったらオフィスががらんとしちゃったよ）

女上司（でも……すぐに慣れると思う）

女上司（だから……心配しないでね、部下君）






おわり